誰でも欠点は隠したいものです。
家やマンションを売却する場合も「実はここに不具合が」などの欠点はできるだけ隠して売却したいと考えるのはごく自然なことでしょうね。
でも、家やマンションを売却する時点で売り主が知っている不具合などがあれば、買い主としては「なんで教えてくれなかったの?」と憤慨してしまうことでしょう。
不具合などを伝えないままで家やマンションを売却することは、あとで大きな問題となって売り主の身に降りかかります。
そこで売り主・買い主の双方の利益を守るために必要なのが「告知義務」を守ることです。
もし告知義務に反して不具合などを隠したまま家やマンションを売却すると、どんな事態が起こるのでしょうか?
目次
【4つの瑕疵】告知義務とは?告知義務の対象になる瑕疵は4種類ある


告知義務に該当するものをざっくりとまとめると「そのことを知っていればその価格で購入しなかった」という内容ですね。
マンション売却にかかる告知義務とは「家やマンションの売り主しか知り得ない問題や欠陥を買い主に伝えること」をいいます。
不動産物件の問題や欠陥は「瑕疵(かし)」と呼ばれ、告知義務における瑕疵には4つの種類があります。
まずは4つの瑕疵について解説していきましょう。
マンション売却において告知義務の対象となる瑕疵は次の4種類です。
4つの瑕疵
- 物理的瑕疵
- 法律的瑕疵
- 環境的瑕疵
- 心理的瑕疵
それぞれの対象について詳しく見ていきましょう。
【物理的瑕疵】雨漏りや耐震強度不足など
物理的瑕疵とは、マンションの建物自体が抱えている欠陥や不具合を指します。
具体的には次のようなものが該当します。
- 雨漏りや水漏れが発生している
- 耐震強度が不足している
- 汚染された土壌に建っている
- 地盤沈下が起きている
このほか、一戸建て住宅ではシロアリ被害なども物理的瑕疵に含まれます。
家やマンションを購入した人が、建物の不具合などによって快適な生活を続けることが難しくなるような場合は物理的瑕疵にあたります。
【法律的瑕疵】建築制限や利用目的の制限など
法律的瑕疵とは、家やマンションが何らかの法規制を受けていることを指します。
建築基準法・都市計画法・消防法などによる規制を受けており、自由な利用が制限されていたり、またはこれらの法令に違反した状態であったりすることが法律的瑕疵にあたります。
土地付きの一戸建て住宅であれば、解体したのちの土地の活用法が都市計画法によって制限されていたり、旧来の法体制のもとで建築されているため現在の建築基準法を満たさず建て替えができないなどのトラブルが想定されます。
家やマンションでは、開発などの影響を受けることはあまり考えられませんが、次のようなものが法律的瑕疵にあたると考えられます。
・構造上、建築基準法が定める安全基準を満たしていない
・建ぺい率や容積率に違反して建てられている
・スプリンクラーや火災報知器などが古く消防法の基準を満たしていない
後々の活用について「そんなはずじゃなかった」と憤ってしまうものや、安全に生活する上で「それで大丈夫なの?」と疑問に感じてしまうものが多いのが法律的瑕疵の特徴です。
【環境的瑕疵】騒音・振動・異臭など
家やマンションにおける生活で特に気になるのは環境的瑕疵でしょう。
- 隣人や周囲からの騒音
- 地下鉄などによる振動
- 周囲の工場などが原因の異臭
- 周囲の建物による日照障害
どれも家やマンションの建物自体には問題がなくても、同じマンションの入居者やマンション周辺の環境などによって引き起こされる問題ばかりです。
また、近隣に暴力団の事務所があることも環境的瑕疵に該当します。
環境的瑕疵は、広く「安心して生活を送ることができない周辺事情」を指していると考えられます。
【心理的瑕疵】自殺・殺人事件の現場など
多くの方が「告知義務がある」と知っている瑕疵といえば心理的瑕疵です。
こちらは、特にマンション売却に興味がなくても、賃貸物件などで「事故物件」と取り上げられて有名になったのでよく知られているでしょう。
- 自殺や孤独死などがあった
- 殺人事件の現場になった
人の死に絡んだことがある物件というのは、やはり気持ちが良いものではありません。
自殺や孤独死など、なんらかの事情があったとしても避けたい気持ちにはなるし、凄惨な殺人事件の現場となったなどのトラブルがあれば「住みたい」とはなかなか思えないでしょう。
中には数十年前に発生した殺人事件でも告知の義務があると裁判所が判決を下した例もあり、心理的瑕疵は内容によって時間が経っても解決しないことがあります。
ただし、心理的瑕疵には個人差があり、たとえば「一度別の人手に渡ったら告知義務はない」とか「病死の場合は告知義務はない」と考えている人もいるなど、一定ではありません。

どういういわれがあるのかもわからないけど「お化け屋敷」とか呼ばれていたり、心霊スポットみたいな扱いをされている家やマンションも心理的瑕疵にあたるんですか?

売り主において事実が確認できないものは対象外なので、ただ薄気味悪いとか「幽霊をみた」などのウワサだけでは心理的瑕疵にはあたりませんよ。
告知義務に違反するとどうなる?返金・契約解除もあり得る

いろいろな種類の瑕疵があるけど、必ず買い主に告知するべきですか?こんな欠点を伝えたら買ってくれなくなりそうなんですが…

買い手がつきにくいことよりも「買い手がついたけどあとで瑕疵がバレた」ときのほうが大変ですよ。わかる限りの瑕疵は告知しておくべきです。
4つの種類の瑕疵があり、それぞれを細かく見ていくと「そんなことも?」と感じるようなものまであったはずです。
もしかすると「それぐらいは告知する必要なんてないのでは?」とも感じたかもしれませんね。
ところが、瑕疵の告知義務を怠ったままで家やマンションを売却してしまうと、あとで大変なことになってしまいます。
告知義務違反した場合①修繕費用を負担する義務を負う
物理的瑕疵のように、不具合箇所があってその箇所を修繕すればそのまま居住することができるような場合は、売り主が費用を負担して修繕工事をおこなう必要があります。
しっかりと瑕疵を告知していれば、瑕疵に対して補償を負うべき「瑕疵担保責任」の期間は概ね3カ月程度にとどまりますが、告知をしていないと瑕疵担保責任が免責されることはありません。
たとえば、告知義務に違反した場合、たとえ売買から5年、10年経っていても、売買の前から存在していたと認めらる瑕疵については売り主が責任を持って修繕することになります。
告知義務違反した場合②慰謝料支払い・返金・契約解除もあり得る!
瑕疵の存在を隠したまま家やマンションを売却してしまうと、瑕疵が発覚した際に買い主が「損をした」という金額を算出して慰謝料の支払いを求めてくるおそれがあります。
たとえば、近隣の住民の中に深夜になると騒音を立てるような人物がいて、実は売買の前からその状態は続いていたとすれば、告知していなかった売り主が責任を負うことになり、慰謝料や賠償金を支払う義務を負います。
もし買い主が「これ以上住み続けることができない!」と感じるほどの瑕疵であれば、売買契約が白紙に戻されてしまうおそれがあります。
支払われた購入代金の全額を返金したうえで、さらに引越し費用や新居が見つかるまでの住居費などを負担しなければならない事態にもなるので、絶対に避けたいところでしょう。
特に心理的瑕疵を告知しなかった場合は、縁起を大切にする日本人にとっては「住むことができない」というクレームに発展しやすいので注意が必要です。
告知義務の範囲はどこまで?瑕疵の告知範囲に基準はない

4種類の瑕疵があることは理解できたんですけど、これに該当したら必ず告知しないといけないんですか?

基本的にはここで挙げたような瑕疵はすべて伝えておくのがベターですが、欠陥であればなんでも伝えないといけないというわけではありませんよ。
もし売却する家やマンションに瑕疵があれば、告知義務に従って買い主に伝えなければいけません。
告知義務に違反すると、売り主による費用負担の修繕や契約解除による全額返金を求められるおそれがあります。
では、4種類の瑕疵に該当するような欠陥があればすべて告知するべきかというと、実は間違いです。
瑕疵と思われるものでも、告知する義務がないものや告知しなくても問題がないものがあります。
反対に、売り主においては大した問題ではないと感じていても、告知しておいたほうが安全なものもあるのです。
ここでは「瑕疵をどこまで告知するべきか?」について考えていきましょう。
告知義務の基準を定めた法令は存在していない
4種類の瑕疵が例示されていたり、それぞれの瑕疵についてどのようなものが該当するのかの解説を聞けば、誰だって「法律で決まっている」と思うでしょうね。
ところが「このような欠陥があれば瑕疵にあたる」という明確な基準を定めた法令は、実は存在していません。
瑕疵の定義も「契約上予定されていた品質・性能を欠いている」というくらいで、瑕疵の範囲については具体的に定義されていないのです。
だから、告知すべき瑕疵についても、これまでに多くの売り主・買い主が裁判で争ってきた判例に基づいて例示されているだけです。
しかも、ある判例では「この範囲は告知すべきだ」と判示されたとしても、まったく違う条件の事例にまで等しく準用できるわけではありません。
告知すべき瑕疵の範囲を明確に示した法令が存在していない以上、瑕疵の告知範囲は個々のケースに応じて検討することになります。
だから告知義務違反に関するトラブルは解決が難しく、裁判も長引いてしまう傾向があるのです。
告知義務がない瑕疵は【目に見える瑕疵】
「なにを、どこまでが瑕疵になるのか?」を判断する基準のひとつとして参考になるのが「民法」です。
民法の第570条・566条によると、不動産売買において「隠れた瑕疵」があった場合、買い主は売り主に対して損害賠償を請求し、瑕疵が存在することで契約の目的が達成できない場合は契約の解除が可能であると示しています。
これが「瑕疵担保責任」の根拠です。
ここでいう「隠れた瑕疵」とは、相当な注意を払っても発見できない欠陥や不利益を指しています。
裏を返せば「隠れていない瑕疵」については売り主が責任を負う必要はないとも解釈できます。
たとえば「室内の壁に大きな穴がある」とか「屋根が大きく傾いている」ことは物理的瑕疵と呼ぶべき欠陥ですが、そんなことは内覧すれば誰の目にも明らかです。
中古車の下取り・買取り査定のように「どこにどんな小傷がある」までをチェックしてすべて記載していくようなことを瑕疵と呼ぶわけではありません。
窓を開ければ目の前に高圧電線がとおっているのは明らかなのに、あとになって「高圧線があるため健康被害が気になる」と隠れた瑕疵を主張されても、売り主の責任は問われないでしょう。
四方を高いビル群に囲まれており、日中をとおしてほとんど日当たりがないとしても、日照障害を隠れた瑕疵と呼ぶことはできません。
そんなことは、一度でも現地を訪れていればわかる話です。
目に見える、隠れていない瑕疵については、わざわざ契約において告知しなくても内覧の段階で口頭説明しておけば足りることで、告知義務の対象とは呼べません。
積極的に告知しておいたほうが良い瑕疵は【心理的瑕疵】
売り主においては「そこまで告知する必要はないだろう」と感じていても、積極的に告知しておいたほうが良い瑕疵もあります。
告知すべき瑕疵の範囲が法令で明確に定められていないということは、逆をいえば瑕疵があると感じる家やマンションの買い主においても「告知してくれるべきだった」と主張する理由にもなるのです。
特に問題になりやすいのが心理的瑕疵です。
実際の事例としては、次のようなものがあります。
・家やマンションのベランダで自殺が発生していた
6年前にベランダで首吊り自殺が発生していた家やマンションについて、買い主は子ども連れのファミリーであったため、積極的に告知すべきと判断された。買い主による契約解除と違約金請求が認められた。
このケースでは、売り主は「6年も時間が経っているのあれば、告知する必要はないだろう」と判断したようですが、裁判所は、買い主の家族構成を重視して「瑕疵が生活に大きな影響を与える」と買い主の主張を認めています。
心理的瑕疵は特にトラブルになりやすい問題です。
たとえば、高齢の家族が自室で就寝中に病死したとします。
高齢者が増えている現代では珍しいことでもないので、わざわざ告知する必要はないと判断することも多いでしょう。
しかし、家やマンションの買い主としては「この部屋で人が亡くなりました」と知れば良い気分にはならないものです。
それに、ひと口に「病死した」といっても、激しく吐血していたり、発見までに時間がかかって室内を汚染していたりすれば、たとえリフォームしていたとしてもやはり告知しておくべきです。
「このくらいなら…」という内容でも告知義務を怠ったことで訴訟沙汰になり、裁判所が買い主の主張を認めた事例はたくさんあります。
売り主の自己判断で告知を省くことは非常に危険だと知っておくべきでしょう。
告知義務違反を避けるために注意したい3つのポイント

こう考えると、どんな瑕疵をどこまで告知するのかって自分だけで判断するのは難しいですね。

自己判断のみに頼るのはとても危険です。まずは不動産会社としっかり話し合うべきですよ。
家やマンションに瑕疵があることを告知しないまま売却すると、大きな責任問題に発展してしまうおそれがあります。
売り主としては、告知義務違反を避けるためにどのような対策を取るべきなのでしょうか?
3つのポイントを挙げましょう。
ポイント①自己判断は禁物!必ず不動産会社と相談すること
告知義務違反を避けるためには、まず仲介業者である不動産会社にしっかりと相談することをおすすめします。
不動産会社は、数多くの事例を経験しているものです。
「これくらいの事例は積極的に告知したほうが良い」とか「これは告知しなくても内覧のときに口頭説明していれば良い」という的確なアドバイスをしてくれるはずです。
実は、告知義務を果たすためには「重要事項説明」という手続きを経ることになります。
売買契約書の締結とあわせて重要事項説明書も取り交すことになりますが、重要事項説明書の作成と説明は、国家資格である宅地建物取引士しかできません。
売り主が独自に作成した重要事項説明書は、一応は「告知した」という行為になったとしても、法的な効力は認められないのです。
そのため、瑕疵の告知については必ず宅建士によっておこなわれるべきなのです。
しかも、宅建士によっておこなわれた重要事項説明の責任は、売り主ではなく宅建士もしくは不動産会社が負うことになります。
仲介を受け持つ不動産会社は、家やマンションをしっかりと確認して、プロの目線でどのような瑕疵が存在しているのかを判断し、自信を持って買い主に物件購入をおすすめするわけですから、不動産会社が責任を持つのは当然なのです。
もし、マンション売却について、仲介手数料の支払いがもったいないからという理由で個人売買を検討している方がいるとすれば、瑕疵に対する責任のリスクを回避するためにも、不動産会社を仲介に立てることをおすすめします。
ポイント②不安なら弁護士にも相談する
もし、不動産会社に相談して「告知する必要がない」といわれても納得がいかない場合は、弁護士に相談してみるのも良いでしょう。
弁護士は法律問題のプロフェッショナルです。
権利関係におけるトラブルについても専門的な知識を持っているので、これまでの様々なトラブル事例と照らして「告知するべき」なのか、それとも「告知義務はない」のかについて、法律や判例に基づく具体的なアドバイスをくれるでしょう。
ポイント③どうしても買い主に伝えたいなら…
不動産会社の担当者が「告知する必要はない」と判断したとしても、やはり売り主としては「伝えておきたい」と考えるような問題もあるでしょう。
どうしても買い主に告知しておきたい問題があって、不動産会社を介して伝えることが難しい場合は、内覧時に案内状を作成して、問題について文章で明記することをおすすめします。
素人である売り主なりの言葉で構わないので「こういった問題があるのでお伝えしておきます」と内覧者に告知しましょう。
口頭での説明よりも具体的になるし、案内状などの資料があれば「言った・言わない」の問題にもなりにくいはずです。
ただし、これは不動産会社としては「やめてもらいたい」と感じる方法です。
仲介を担当する不動産会社としては、気持ちよく仲介ができないと考えるかもしれないので、できれば売り主としてはこんな強硬手段を取らなくても良いように、不動産会社としっかり話し合うことをおすすめします。
告知義務違反を避けるために一括査定サイトを活用しよう
みなさんは「不動産の一括査定サイト」をご存知でしょうか?
カンタンな情報を入力して送信するだけで、複数の優良な不動産会社へと売却査定の申し込みができるサービスです。
瑕疵の告知義務について疑問がある、いま媒介契約を結んでいる不動産会社の対応に疑問を感じているという方なら、セカンドオピニオンとして別の不動産会社の査定を受け、告知義務についても相談すると良いでしょう。
いくつかの優良な不動産会社に相談したうえで、それでも「告知義務はないでしょう」と判断されれば安心できるし、もし「いや、これは積極的に告知するべきです」という不動産会社があれば乗り換えるのもアリです。
告知義務違反によって売り主の責任を問われる事態を避けるために、ぜひ不動産の一括査定サイトをご活用ください。
マンション売却での告知義務の範囲と4つの瑕疵とは!?告知義務違反は返金・契約解除の対象のまとめ

告知義務違反になると大きな損害になるし、瑕疵の告知はしっかりとしておきべきですね。

そのとおりです。もしかすると値下げ交渉の材料になったり、売却までに時間がかかったりするかもしれませんが、告知義務違反を指摘されて責任を問われるよりは良いでしょう。
告知義務違反に問われると、売り主としては大きな損害を被ることになります。
もし最終的な結果が「責任はない」というものになったとしても、裁判に対応するための労力は相当なものになるでしょう。
マンション売却で告知義務違反に問われないためには、仲介の不動産会社選びが大切です。
後々になって大きな責任を問われるのを避けるために、信用できる不動産会社にお任せして適切なアドバイスをもらいましょう。
「告知義務」ってよく聞く言葉ですけど、具体的にはどんなことを指しているんですか?